「Apple N1」が気になる【西田の戯言。】

Appleは、最近の製品において、無線チップを内製化しています。

Appleの無線と無線チップ

Appleはこれまで、iPhoneなどの無線チップにQualcomm製またはIntel製のものを採用していました。

特に顕著なのがモバイル回線用のモデルで、それまでQualcomm製モデムチップを採用していたiPhoneが、2017年に特許問題やらロイヤリティ問題でQualcommと法的紛争を始めたあと、2019年に集結するまでIntel製を採用していました。iPhoneが5Gの対応において、若干後発だったのは、この法的紛争が原因とも言われています。

しかし、この法的紛争が解決した直後、AppleはIntelのモバイル向け5Gモデムの事業を買収し、自社製品の開発を加速。ついにiPhone 16eに初めてとなる5G対応モデムチップである「Apple C1」の採用に成功しました。

それ以外にも、2019年にはUWBチップである「Apple U1」を採用している他、iPhone 17/AirとiPad Proには「Apple N1」チップを採用しました。

現在、Apple Siliconのラインナップの中で無線チップとして登場しているのは、

  • Apple C1
  • Apple C1X
  • Apple N1
  • Apple U1
  • 第2世代超広帯域チップ(本稿では「Apple U2」とします)

の5種類です。AirPods向けのSiPとかを含むともうあと3種類くらい増えますが、純粋な無線チップではないので、カウントしないこととしましょう。

世間はやはり「Apple C1」と「Apple C1X」に注目していますが、個人的に気になっているのが「Apple N1」の方です。

Apple N1

Apple N1は、Wi-Fi 7、Bluetooth 6、Threadをサポートしたワイヤレスチップです。

軽く内製化によるポイントを先に説明しておきます。

内製化のメリットとして、仕様や設計を完全に制御できるというものがありますが、Appleによればワイヤレス処理を完全にApple N1にオフロードできる仕組みがApple A19に用意されているとのこと。

具体例が位置情報です。位置情報は衛星を用いたGPSに加えて、実際にはWi-Fiやモバイル回線も使用されます。大概の場合、Wi-Fiだけでかなり高精度な位置特定自体は可能です。この周りの処理をApple N1にオフロードすることで、A19のメインプロセッサの処理を軽減することができるとしています。

さて、内製化の話を軽くしたところで、ワイヤレスの仕様をお話していきましょう。

Thread

Apple N1は、Wi-Fi 7、Bluetooth 6、そしてThreadといった最新の無線規格をサポートしています。Threadは少し聞き慣れないかもしれませんね。

Threadは、IPv6(IPv6 over Low-Power Wireless Personal Area Networks / 6LoWPAN)を基盤とするメッシュネットワーク技術です。主にネットワーク層を中心とした実装で、ルーティングやセキュリティ機能も備えています。

物理層はZigbeeと共有(IEEE 802.15.4)しており、同じハードウェアをファームウェア更新などでThread対応にできるという特長があります。

したがって、Apple N1は厳密にはIEEE 802.15.4に対応した無線チップということになります。

Threadについては面白い話がありそうなので、また勉強して別の記事にまとめたいですね。

Wi-Fi 7

Wi-Fi 7は、iPhone 16 Proから対応していますが、iPhoneラインナップ全体が対応したのがApple N1からです。

Wi-Fi 7はブランド名、正確な規格はIEEE 802.11beです。Wi-Fi 6/6Eの後継であり、2.4 GHz、5 GHz、6 GHzをサポートしています。Apple N1も同様、この3つの周波数帯をサポートしています。

本題に入る前に、一度、Apple N1の話から外れて、Wi-Fi 7の注目新機能をざっとご説明しておきます。

  • 320 MHz幅
  • Multi-Link Operation(MLO)
  • Multi-RU

実際にはもっと多くありますが、注目機能がこの3つです。

Wi-Fi 7は320MHz帯域幅に対応したので、チャネル幅が2倍つまり、データ転送速度が2倍になります。更にここに2倍ストリーム数である16x16 MIMOのサポートと、4096-QAMのサポートによって、最大46 Gbpsの理論値を実現しています。

次にMLO。MLOは2.4 GHz、5 GHz、6 GHzの周波数帯を同時に使うことで、帯域幅を大きくして通信速度を向上させた上で、干渉を防いでいます。

最後に Multi-RU。これは、Wi-Fi 6で導入された OFDMA をさらに発展させた仕組みです。

Wi-Fiでは、電波の帯域を20 MHzごとのチャネルという単位で区切り、その中をさらに RU(Resource Unit) と呼ばれる小さな単位に分けて利用します。最小のRUは26トーンで、およそ2 MHzの帯域に相当します。Wi-Fi 6では、チャネル内のRUを複数の端末に割り当てることで、複数の端末が同時に通信できるようになりました。

一方、Wi-Fi 7では、1台の端末に対して複数のRUを同時に割り当てることが可能になり、離れた位置にある(非連続な)RU を組み合わせて使うこともできるようになりました。これにより、より柔軟で効率的な通信が実現します。


Wi-Fi 7と聞くと「46 Gbpsのスループット!!」「低遅延!!」「高信頼性!!」というインパクトのある特長が叫ばれます。実際そのとおりですし。

Wi-Fi 7は、技術面でかなり進化したWi-Fiの規格といえます。特に、スループット向上については、320 MHz幅のサポート、16x16 MIMOのサポートによって4倍の理論値を実現していますし、ここに4096-QAMを加えれば計算上4.8倍のスループットは実現できます。ただしこれには「すべてのWi-Fi 7の機能をフルでサポートするならば」という但し書きがつきます。

Apple N1では「Wi-Fi 7の機能に一部制約がある!」というセンセーショナルな報道が飛び交いました。これはApple N1が「320 MHz帯域幅をサポートしない」という情報です。

Apple N1のWi-Fiの仕様は「2x2 MIMO」かつ「160 MHz」であり、320 MHzを使用する事はできません。

ただそれほど悲観的に捉える必要もありません。

そもそも、320 MHzの帯域幅が使える環境はあまり多くはありません。

まず、320 MHz幅が使用できるのは 6 GHz帯のみ です。しかし、日本やヨーロッパなど多くの地域では、この6 GHz帯のうち 5925~6425 MHz(500 MHz) しか利用できません。この中で320 MHzを確保すると、残りの周波数はわずかしか残らず、実質的に320 MHzチャネルは1つしか運用できないことになります。

そのため、320 MHzは理論的には高速ですが、実際に使える場面は限られているのです。

実際、Wi-Fi 7対応を歌いながら320 MHzに対応しないというデバイスは多いです。

ちなみに、Apple N1が4096-QAMなら、理論スループットは、2.6 Gbps~2.88 Gbps程度と見込まれます。ただこれは、あくまでも帯域幅・ストリーム数・変調に注目した値であり、MLOやMulti-RUなどの機能によってはここから更に変動します(レビューによっては4Gbpsでたみたいな話あったし)。

Bluetooth 6

最後にBluetooth 6。と言ってもApple N1だからここが違う!というのはありません。

Bluetooth 6は、Bluetooth Channel Soundingが新たに追加されています。これはBluetoothによる測距技術です。UWBと技術的に異なりますが、最終的な目的は同じと言えます。UWBと比較したBluetooth Channel Soundingの最大のメリットは、Bluetoothだけで測距機能を実現できるということです。

精度についてはUWBに分があるようですが、それでもApple U1のような専用のチップなしで測距を実現できるのはいいことです。

これ以上Bluetooth 6について語れることが多くないというのは私の知識不足ですが、知ったかで話を進めるのも良くないので、ここらへんでとどめておきます。

最終的にどうしたいのか

Appleはついに、独自SoCに、5Gチップ、Wi-Fi/Bluetoothチップの内製化に成功しました。Qualcommに追いつきつつあります。

ただ、Qualcommとの大きな違いが、それぞれのチップが独立していることです。Qualcommの最新モバイル向けSoCである「Snapdragon 8 Elite Gen 5」では、Oryon CPU・Adreno GPU・Hexagon NPUに加えて「Snapdragon X85」5Gモデム、「FastConnect 7900」Wi-Fi/Bluetoothチップを内蔵しています。

Appleも将来的にはワンチップでこれらを実現したいはずで、数年以内には実現することになると思います。特にiPhone Airのような設計に限界があるデバイスでは、チップが独立するのは避けたいことだと思います。この先の展望には注目が集まりますね。

以上。ほなまた。


この記事を書いた人

西田(総合情報学部 情報学科 2021年入学)

通信研究会OB。当ホームページの保守運用を支援しています。組み込み系のソフトウェアエンジニア。応用情報技術者・修習技術者。